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【緊急提言レポート】ホルムズ海峡封鎖で露呈した運送業界の構造的脆弱性 ― 燃料高騰の中で中小運送会社が今すぐ着手すべきこと ―

はじめに

「軽油が2カ月で35円上がった」― その意味を、数字で考えたことはありますか?

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランを攻撃しました。3月2日、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を宣言。世界の石油消費量の約2割が通過する要衝が事実上閉鎖され、原油価格は急騰しました。

資源エネルギー庁の石油製品価格調査によると、2026年3月16日時点の軽油全国平均小売価格は178.4円/L。政府の補助金がなければ195円を超える水準です。1月上旬の143円から、わずか2カ月で35円の上昇です。

「35円」と聞いて、危機感を持てるでしょうか。

大型トラック1台あたりの月間軽油消費量は、概ね3,000〜5,000リットル。1リットルあたり35円の上昇は、1台あたり月間10万〜17万円のコスト増を意味します。10台保有の運送会社なら月間100万〜170万円。年間で1,200万〜2,000万円に上ります。

全日本トラック協会の経営分析報告書によると、車両20台以下の中小運送事業者の営業損益率はマイナスで推移しています。つまり、燃料費が上がる前から赤字基調の会社が大半であり、ここに年間1,000万円を超える追加コストがのしかかります。

これは経営の危機ではなく、存続の危機なのです。

本稿では、ホルムズ海峡封鎖がもたらした燃料高騰の実態を定量的に整理した上で、中小運送会社が今この瞬間に何をすべきかを考えます。

1. 何が起きているのか ― ホルムズ封鎖の時系列と影響

攻撃から封鎖へ ― 2週間で世界が変わった

時系列を整理します。

  • 2月27日:攻撃前日。WTI原油先物価格は67.02ドル。
  • 2月28日:米国・イスラエルがイランへ大規模攻撃を開始(エピック・フューリー作戦)。
  • 3月1日:ハメネイ師および革命防衛隊幹部7名の死亡が報じられる。
  • 3月2日:イラン革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を宣言。日本郵船・商船三井・川崎汽船が通航を停止。
  • 3月5日:WTI原油が76.68ドルに上昇。イランが米タンカーを攻撃し81ドル台に。
  • 3月9日:モジタバ・ハメネイ師が新最高指導者に就任。
  • 3月12日:新最高指導者が封鎖継続を宣言。ブレント原油が100ドルを突破。
  • 3月13日:開戦から2週間。被害船舶は少なくとも10隻前後。

日本は原油輸入の約95%を中東に依存しています。ホルムズ海峡を経由する原油は日本の輸入量の約70〜90%を占めます。この海峡が機能不全に陥ったことで、日本のエネルギー調達は根幹から揺らいでいます。

日本への影響 ― 「ただちに」の先にあるもの

高市首相は「ただちに電気・ガス料金は上がらない」とコメントしました。日本には254日分の石油備蓄があります。

しかし、備蓄は物理的な供給量の話であり、価格の問題は別です。備蓄を放出しても、国際原油価格が100ドルを超えている限り、新たに調達する原油は高くなります。

ニッセイ基礎研究所の試算によれば、ホルムズ封鎖が2〜3カ月継続した場合、原油価格は1バレル100ドルを超える可能性があります。ドバイ原油が110ドルまで上昇した場合、ガソリン価格は1リットル204円前後に達する計算です。

軽油も同等以上の上昇が見込まれます。

2. 軽油価格の推移 ― 数字が示す「静かな急変」

1年間の推移を見ると、事態の異常さが分かる

2025年3月から2026年3月にかけての軽油全国平均価格の推移を確認します。

  • 2025年3月:167.7円
  • 2025年6月:157.6円
  • 2025年10月:153.7円
  • 2025年11月:149.2円
  • 2026年1月上旬:143.0円
  • 2026年2月中旬:144.9円
  • 2026年3月9日:149.8円
  • 2026年3月16日:178.4円(補助なしで195.5円超)

2025年後半から2026年1月にかけて、軽油価格は暫定税率廃止の効果もあり、140円台前半まで下落していました。運送会社にとっては、ようやく一息つける局面でした。

それが、ホルムズ封鎖を境に一変しました。3月9日から16日のわずか1週間で28.6円の上昇です。1990年の調査開始以来、最大級の週間上昇幅と言えます。

補助金は万能ではない

3月19日から、政府は燃料油価格定額引下げ措置を再開しました。軽油に対して1リットルあたり47.3円が元売りに支給されます。

これは助かります。しかし、3つの問題があります。

第一に、時間差の問題。補助金は元売りに支給されますが、店頭価格に反映されるまで1〜2週間かかります。その間、運送会社は高値で燃料を買い続けなければなりません。

第二に、水準の問題。補助なしの軽油価格が195円を超えている以上、47円の補助があっても148円です。ホルムズ封鎖前の143円よりまだ高い状態です。しかも原油価格がさらに上がれば、この47円では追いつきません。

第三に、期限の問題。軽油の暫定税率は2026年4月1日に廃止される予定ですが、補助金も同時に打ち切られる可能性があります。暫定税率廃止の減税効果と補助金打ち切りが相殺されるのであれば、運送会社にとっては何も変わりません。

3. 運送業界の利益構造 ― なぜ燃料費上昇が「致命的」なのか

営業費用の55%は事実上の固定費

運送業のコスト構造を理解しないと、35円の値上げがなぜ致命的なのかがわかりません。

全日本トラック協会のデータによると、トラック運送業の営業費用に占める主要費目の構成比は以下の通りです。

  • 人件費(ドライバー含む):約39〜40%
  • 燃料油脂費:約14〜15%
  • 車両費(減価償却・リース):約12〜13%
  • その他(修繕費・保険料・高速代等):約30%

人件費と燃料費だけで営業費用の55%を占めます。そしてこの55%は、いずれも削減が極めて困難な費目です。

人件費は、ドライバーの有効求人倍率が2.82倍(全業種平均1.22倍)という人手不足の中で、削減どころか引き上げ圧力がかかっています。

燃料費は、トラックが走る限り必ず発生します。エコドライブでせいぜい5%の改善にすぎません。35円の値上げに対しては焼け石に水です。

中小ほど、燃料費に追い詰められる

全ト協の経営分析報告書(令和4年度決算版)は、規模別の収益性について衝撃的な数字を示しています。

  • 201両以上の事業者:経常利益率+3.5%
  • 101〜200両:+2.6%
  • 51〜100両:+2.0%
  • 21〜50両:+0.5%
  • 11〜20両: ▲0.5%
  • 10両以下: ▲1.5%

20両以下の小規模事業者は、ホルムズ封鎖が起きる前から営業赤字が常態化していました。ここに年間1,000万円を超える燃料費増がのしかかれば、廃業か倒産かの選択を迫られる事業者が続出します。

実際、道路貨物運送業の倒産件数は2023年に328件(過去10年で最多)、2024年度はリーマン・ショック時の371件に迫る360件前後に達する見通しです。帝国データバンクの分析では、物価高倒産の9割が燃料価格上昇を要因としています。

運送会社が1社倒産すれば、そのドライバーたちは他の業界に流れます。一度離れた人材は戻ってきません。そしてその会社が運んでいた荷物は、残った会社に集中します。残った会社の負荷が上がり、さらに倒産が連鎖します。

ドミノ倒しが始まっているのです。

4. 「四重苦」の構造 ― 燃料高騰だけではない

燃料高騰は、既存の3つの危機に追加された「第四の危機」

現在の運送業界が直面しているのは、燃料高騰だけではありません。4つの構造的課題が同時に作用する「四重苦」の状態にあります。

第一の苦:2024年問題

2024年4月から適用された時間外労働の上限規制(年間960時間)により、ドライバー1人あたりの稼働可能時間が制約されました。NX総合研究所の試算では、対策がなければ2030年に国内貨物輸送量の34.1%が運べなくなるとされています。限られた時間の中で、いかに効率的に運行するかが問われています。

第二の苦:人手不足

トラックドライバーの有効求人倍率は2.82倍で、全産業平均の2倍以上です。総務省の労働力調査では2022年度のドライバー数は約87万人ですが、経済産業省は2030年に51.9万人まで減少すると推計しています。ドライバーの平均年齢は全産業平均より3〜6歳高く、高齢化が進んでいます。

第三の苦:トラック新法(貨物自動車運送事業法改正)

2025年6月に成立したトラック新法は、5年ごとの許可更新制を導入し、「適正原価」を継続的に下回らないことの確保を求めています。これは、運送会社が自社の原価構造をデータで説明できる能力を持つことを前提としています。国交省が目指しているのは、「データが出せる会社だけを残す」という業界再編です。

第四の苦:燃料高騰

ここにホルムズ封鎖による燃料高騰が加わりました。限られた時間で、足りないドライバーで、法令を遵守しながら、しかもコストが急上昇している中で走り続けなければなりません。

この四重苦の悪循環は以下の通りです。燃料高騰 → 利益消失 → 賃上げ不能 → ドライバー離職 → 受注減 → さらなる経営悪化へと繋がります。一方で、コンプライアンス強化により労働時間は制約されます。効率を上げなければ生き残れませんが、そのための投資余力が燃料高騰で消失してしまいます。

5. 燃料サーチャージはなぜ機能しないのか

制度はあっても、中小には使えないのが現実

燃料サーチャージ制度は、燃料価格の上昇分を別建ての運賃として荷主に請求する仕組みです。国土交通省も告示で算出方法を定めており、制度としては整備されています。

しかし現実には、中小運送会社がこの制度を使いこなせていません。

理由は単純で、交渉力がないためです。

「燃料サーチャージを申し入れたら、荷主から『他に安い業者はいくらでもいる』と言われた」――これは、全国の運送会社から繰り返し聞く声です。

航空業界ではJALもANAも、燃料サーチャージを当たり前に旅客に請求しています。誰も不思議に思いません。ところがトラック業界では、同じことをしようとすると「仕事を切られる」リスクがあります。

この非対称性こそが、問題の根幹なのです。

「データで示す」ことが交渉の前提になる

2026年1月に施行された取引適正化法(旧下請法の改正法)は、荷主への価格転嫁の法的根拠を強化しました。しかし、燃料サーチャージの未収受が「買いたたき」に該当するかどうか、実務上はまだグレーゾーンです。

ここで重要になるのが、データです。

「うちの車両はこのルートで月間○○リットルの軽油を消費しています。1リットルあたり35円の上昇で、この荷物を運ぶコストが月間○○円増加しています」

この説明ができれば、燃料サーチャージの請求は「お願い」ではなく「根拠に基づいた提示」に変わります。

しかし多くの中小運送会社は、この「1運行あたりのコスト」を正確に算出できていません。手書き日報、タコグラフは運行しか取れない、労働時間は紙やExcelで転記、燃料消費はガソリンスタンドの請求書ベース。バラバラのデータが統合されていないのです。

「説明できない」ことが、燃料サーチャージを荷主に通せない根本原因なのです。

6. 「うちは大丈夫」が一番危ない ― 現場で実際に起きていること

ケース1:監査をきっかけに「管理の穴」が発覚

ある関東の運送会社(車両約100台)は、長年Excelで勤怠管理を行っていました。改善基準告示も「守っているつもり」でした。

しかし、労働基準監督署の臨検で拘束時間の計算方法に不備が指摘されました。Excelの計算式が法改正に追いついておらず、2週平均の算出ロジックが古いまま放置されていたのです。

結果、過去2年分の再計算を求められ、未払い残業代として数百万円の追加支払いが発生しました。経営者は「まさか計算式が間違っていたとは」と語りました。

問題は、「守っていなかった」ことではありません。「守っているつもりだった」ことです。Excelでは法改正の自動追従ができません。担当者が気づかなければ、古いルールのまま計算し続けてしまいます。

ケース2:荷主交渉で「根拠を出せ」と言われて詰まる

東北のある運送会社(車両30台)は、燃料高騰を受けて主要荷主に燃料サーチャージの協議を申し入れました。荷主の回答は「わかりました。ではそちらの燃料消費の実績データと、1運行あたりのコスト計算を出してください」というものでした。

しかし、出せませんでした。

燃料消費はガソリンスタンドの月次請求書でしかわかりません。車両別・ルート別のデータはありません。労働時間は手書き日報ベース。「1運行あたりのコスト」という概念そのものが、管理の仕組みの中に存在しませんでした。

結局、燃料サーチャージの交渉は「お気持ちはわかりますが、根拠がないと社内稟議が通らない」と保留にされてしまいました。

制度はあります。法律も味方してくれています。しかし、データがなければ使えないのです。

ケース3:ドライバーの退職後に訴訟が来た

九州のある運送会社(車両15台)では、退職したドライバーから未払い残業代の請求が届きました。請求額は約400万円です。

運送業特有の複雑な給与体系(基本給+歩合+各種手当+深夜割増+休日割増)の中で、時間外労働の割増計算が一部漏れていました。会社としては「払っているつもり」でしたが、計算根拠を示せませんでした。

弁護士費用と和解金を合わせた支出は、結局500万円を超えました。車両15台、年商2億円規模の会社にとって、これは経営を揺るがす金額です。

しかも、この訴訟が他の在籍ドライバーに知れ渡ると、連鎖的に請求が来るリスクがあります。

燃料費で経営が苦しいときに、訴訟で止めを刺される ―― これが最悪のシナリオです。

7. 具体的なコスト試算 ― 「見える化」前と後で何が変わるか

車両20台・ドライバー25名の運送会社を想定

現状の管理コスト(Excel+手作業)と、運送業特化の勤怠管理システムを導入した場合のコストを比較します。

管理者の工数コスト(現状)

  • 勤怠集計:1日あたり約45分 × 月20日 = 月間15時間
  • 給与計算の確認・修正:月間約10時間
  • 監査準備(年2回程度):1回あたり約40時間

管理者の人件費を時給2,000円とすると、年間コストは約70万円になります。

さらに、ここに見えないコストが加わります。

  • 計算ミスによる過払い/未払いリスク:年間数十万〜数百万円
  • 監査指摘による是正コスト:ケースにより数百万円
  • 訴訟リスク:ケースにより数百万〜数千万円

システム導入後のコスト

運送業に特化した勤怠管理システムの月額コストは、20台規模の会社で概ね月額3〜4万円程度。年間で約40万円前後となります。

一方、導入効果として期待されるのは以下の通りです。

  • 管理工数の削減:40〜80%(導入企業の実績値)
  • Excel転記ゼロ → 計算ミスの排除
  • 改善基準告示違反の自動検知 → 監査リスクの低減
  • 最賃割れ・未払い残業の自動検知 → 訴訟リスクの排除
  • 燃費・CO2データの自動記録 → 燃料サーチャージ交渉の根拠

年間40万円の投資で、潜在的には数百万円規模のリスクを回避し、かつ荷主交渉の武器を手に入れることができます。投資対効果は、数十倍以上と言えるでしょう。

「DXは大手のもの」という誤解

中小運送会社の経営者からよく聞くのが、「DXは大手がやること。うちには関係ない」という言葉です。

しかし、現実は逆なのです。

大手は専任のIT部門や管理部門を持ち、法改正にも迅速に対応できます。DXしなくても、人海戦術でカバーできる体力があります。

中小にはそれがありません。だからこそ、仕組みの力で補う必要があるのです。

トラック新法が求めているのは「データで説明できる能力」であり、会社の規模は関係ありません。10台の会社でも、許可更新の際に「適正原価のデータ」を出せなければ、免許を失うリスクがあります。

8. 今すぐ着手すべき3つのこと

第一に:自社の「1運行あたりのコスト」を把握する

燃料サーチャージの交渉も、経営判断も、すべてはここから始まります。

車両ごと・ルートごとの燃料消費量を勤怠データと紐付けて可視化します。人件費(ドライバーの実労働時間 × 単価)と燃料費を合わせた「1運行あたりのコスト」を算出します。

これがあれば、荷主に対して「この運賃では赤字です」と数字で示せます。国交省のトラック新法が求めている「適正原価のデータ提出」にも対応できます。

手書き日報やExcelでも不可能ではありませんが、正確性と継続性の観点では限界があります。運送業に特化した勤怠管理システムを活用すれば、走行データ・勤怠データ・給与データを統合し、原価の透明性を高める基盤を作ることができます。

第二に:改善基準告示の遵守を「証明できる状態」にする

2024年問題への対応として、改善基準告示を遵守している運送会社は多く存在します。

しかし、「遵守している」ことと「遵守していることを証明できる」ことは、まったく異なります。

トラック新法では、5年ごとの許可更新制が導入されます。免許更新の際に、改善基準告示の遵守状況をデータで示せるかどうかが問われます。

拘束時間、休息時間、連続運転時間、2週平均、休憩 ―― これらを手計算で管理している限り、第三者に説明可能な状態にはなりません。「見えないズレ」が積み重なり、いざ監査や許可更新の場面で「説明できない数字」が出てくるリスクがあります。

シミュレーション機能を持つシステムであれば、シフトを組む前に法令違反を検知できます。限られた時間枠の中で最大の運行回数を確保しながら、コンプライアンスを守ります。これは「攻め」と「守り」を同時に実現するアプローチと言えます。

第三に:給与計算の「爆弾」を処理する

燃料高騰で経営が苦しくなると、人件費に手をつけたくなるものです。しかし、ここに地雷があります。

未払い残業代の問題です。

運送業界では、複雑な給与体系(歩合給、手当、深夜割増、休日割増)により、意図せず最低賃金を下回ったり、未払い残業が発生したりするケースが少なくありません。経営が順調なときは表面化しませんが、経営が悪化すると、退職したドライバーが未払い残業代を請求してきます。

1件あたり数百万円から数千万円の請求が来ることもあります。燃料費で苦しいところに訴訟費用が追い打ちをかけ、一気に経営が破綻してしまいます。

実際に、未払い残業代訴訟をきっかけにシステム導入に踏み切った運送会社は複数あります。訴訟が起きてからでは遅いのです。最賃割れ・未払い残業を自動検知する仕組みを入れておくことは、経営防衛の基本と言えます。

9. 政策動向 ― 何が起きようとしているのか

補助金と暫定税率の「綱引き」

現在の政策対応は以下の通りです。

  • 燃料油価格定額引下げ措置:3月19日から軽油47.3円/L支給再開
  • ガソリン暫定税率:2025年12月31日に廃止済み
  • 軽油暫定税率:2026年4月1日に廃止予定

問題は、暫定税率廃止と補助金打ち切りがセットで設計されている点です。暫定税率を廃止して減税する代わりに補助金を止めます。理屈上は「トントン」ですが、原油価格が急騰している今、このタイミングでの補助金打ち切りは致命的と言えます。

全ト協の危機突破大会

全日本トラック協会(寺岡洋一会長)は、2026年3月27日に自民党本部で「燃料高騰危機突破大会」を開催します。トラック運送事業者だけでなく、バス・タクシー業界も参加する業界横断の政治アクションです。

求められている政策は明確です。

  • 燃料補助金の拡充と継続(上限引き上げ、原油価格連動の自動増額メカニズム)
  • 燃料サーチャージの実効化(荷主が拒否した場合の取適法違反の明確化)
  • 中小事業者向けの緊急つなぎ融資

しかし、政策を待っているだけでは間に合いません。政策が動くまでの間に、自社の経営基盤を固めておく必要があります。

10. 中長期の視点 ― 「生き残る会社」と「退場する会社」を分けるもの

データで語れるか、語れないか

トラック新法の本質は、「データが出せる会社だけを残す」という業界再編の方向性にあります。

これは燃料高騰とは別の文脈で進んでいた政策ですが、ホルムズ封鎖による危機がこの流れを加速させます。

なぜでしょうか。燃料高騰で経営が苦しくなると、コスト削減のために安全管理を手抜きしたり、改善基準告示を逸脱した運行を強いたりする事業者が出てきます。国としては、そうした事業者を排除し、法令を遵守しながら持続可能な経営ができる事業者だけを残したいという狙いがあります。

その「ふるい」の基準が、データなのです。

  • 労働時間をデータで管理できているか
  • 安全管理の証跡がデータで残っているか
  • 適正原価をデータで示せるか
  • 賃金計算の根拠がデータで説明できるか

これらを「はい」と言える会社だけが、次の5年間の許可を得られる時代が来ます。

今日の投資が、5年後の許可更新を決める

運送業に特化した勤怠管理や給与計算の仕組みを導入することは、短期的にはコスト削減(管理工数の削減、訴訟リスクの回避)として効果があります。

しかし、本質的な価値は中長期にあります。

デジタコの運行データ、勤怠管理の労働データ、給与計算の賃金データ、燃費・CO2の排出データ ―― これらを統合し、「1運行あたりのコスト」「1ドライバーあたりの生産性」「車両別の燃費効率」を定量的に把握できる状態にしておくことが求められます。

これが、5年後の許可更新で問われる「適正原価の説明能力」であり、荷主との燃料サーチャージ交渉の武器であり、ドライバーの採用・定着のための適正賃金の根拠であり、経営者自身の意思決定の基盤となります。

燃料高騰は一時的な危機かもしれません。しかし、データ経営への転換は不可逆の流れなのです。

おわりに

「耐える」から「備える」へ

ホルムズ海峡の封鎖がいつ解消されるかは、誰にもわかりません。原油価格がいつ下がるかも、予測できません。

しかし、予測できないからこそ、「耐える」だけでは足りないのです。

本稿で述べたことを整理します。

現状の認識:

  • 軽油は2カ月で35円上昇し178.4円/L。補助なしで195円超
  • 中小運送会社(20両以下)は燃料高騰前から営業赤字が常態化
  • 倒産件数はリーマン時に迫る360件前後
  • 燃料高騰・2024年問題・人手不足・トラック新法の「四重苦」

今すぐやるべきこと:

  • 自社の「1運行あたりのコスト」を把握する
  • 改善基準告示の遵守を「証明できる状態」にする
  • 給与計算の「爆弾」(未払い残業リスク)を処理する

中長期の備え:

  • データで語れる経営基盤を作る
  • トラック新法の許可更新に耐えうる証跡管理体制を構築する
  • 荷主交渉の武器としての原価データを蓄積する

これらはすべて、燃料価格が下がっても無駄にならない投資です。むしろ、トラック新法・2024年問題・人手不足対策のすべてに共通する基盤が「データの可視化」なのです。

運送会社の99%は中小企業です。大手のように専任のIT部門を持つことはできません。だからこそ、運送業の現場を知っている仕組みが必要になります。

全日本トラック協会は3月27日に自民党本部で燃料高騰危機突破大会を開催します。業界全体が声を上げ、政策を動かすことも重要です。しかし、政策が動くまでの間にも、経営は止まりません。

危機を嘆くだけでは、何も変わりません。

今日、データを整えることから始めた会社だけが、半年後に荷主と対等に交渉でき、3年後にトラック新法の許可更新をクリアし、5年後も走り続けているはずです。

その一歩を、ぜひ今日踏み出してください。

参考・出典

  • 資源エネルギー庁「石油製品価格調査」(2026年3月16日時点)
  • 経済産業省「燃料油価格定額引下げ措置」特設ページ
  • Bloomberg(2026年3月2日)ホルムズ海峡封鎖と原油価格
  • ニッセイ基礎研究所(2026年3月5日)ガソリン価格試算レポート
  • 野村證券(2026年3月)原油価格見通しレポート
  • 日本経済新聞(2026年3月2日・6日)ホルムズ海峡関連記事
  • ロジスティクス・トゥデイ(2026年3月13日)海峡封鎖2週間記事
  • 全日本トラック協会「経営分析報告書」(令和4年度決算版)
  • 帝国データバンク「道路貨物運送業の倒産動向」(2024年度)
  • 東京商工リサーチ 倒産・休廃業データ
  • 国土交通省 トラック運送業関連統計
  • 日経COMPASS(2026年2月16日調査)

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