問題提起

2024〜2025年にかけて、運送会社の勤怠・給与まわりの負担は急増しています。改善基準告示の改正、トラック新法、監査・指導の強化が同時進行し、「紙＋Excel」ではもう追いつけない――そんな「給与計算が限界」に近づいている現場も少なくありません。

記事を読んでわかること

本記事では、運送会社が直面している勤怠・給与計算の課題を整理しながら、ありがちな失敗パターンと成果が出ている会社の共通点を解説します。そのうえで、トラック新法も見据えた「実働情報の一元管理」「法令判定の自動化」「給与根拠の可視化」といった整備ポイントを具体的な事例とともに紹介します。

記事を読むメリット

この記事を読むことで、「なぜ今のやり方では間に合わなくなるのか」「どこから整えればよいのか」が整理できます。単にシステムを入れるのではなく、監査対応やドライバーとの信頼関係を含めて、1年後に大きな差がつく「勤怠・給与の仕組みづくり」の方向性をつかめるようになります。

はじめに：なぜ「給与計算が限界」なのか

2024〜2025年にかけて、運送業界の勤怠・給与まわりの負担は急増しています。背景には、次のように複数の法令改正と運用強化が同時進行しているという事情があります。

同時進行する法令改正と運用強化

• 改善基準告示の改正（2024年適用）
  • 年間拘束時間、月間拘束時間、休息期間の基準が厳格化
  • 特に勤務間インターバルの扱いが実務に大きく影響
• トラック新法（流通業務適正化・効率化関連法）
  • 荷主との契約書面化義務
  • 体制管理簿の整備
  • 取引適正化に向けたチェックの強化
• 監査・指導の強化
  • 拘束時間・荷待ち時間の調査が拡大
  • 点数評価や改善指導がより厳格に
  • 帳票だけでなく「実態」が確認される流れに

その結果、次の状態が同時に発生しています。

• 記録する項目が増えた
• 法令判定が複雑化した
• 給与計算の根拠説明が求められるようになった

これまでの「紙＋Excel」の管理では追いつけないほど環境が変化しているのが現状です。

なぜ給与計算が間に合わなくなるのか

【原因①】入力作業の絶対量が増えている

改善基準告示の遵守には、出庫・帰庫、休憩、荷待、待機、点呼、拘束時間など、毎日必ず発生する実績の詳細を記録する必要があります。

この細かさが、Excel転記の大きな負担につながっています。

【原因②】「労基法 × 改善基準告示」の二軸判定が必要

会社は次の両方を満たす必要があります。

• 労働基準法（36協定の範囲）
• 改善基準告示（拘束時間・休息期間など）

この二軸判定を手作業で行うのは難しく、チェック漏れや計算ミスの温床になりやすい状況です。

【原因③】勤怠と給与体系が切り離されている

深夜手当、長距離手当、時間帯手当などが社内ルール化されている場合、その判断基準を給与担当者だけが把握していることが一般的で、属人化が起こります。

結果として、

• 属人化
• 判断のバラつき
• ミス発生
• 修正対応で時間が増える

という悪循環に陥りがちです。

ありがちな「失敗パターン」

勤怠管理に課題がある会社の典型例には、次の共通点があります。

• デジタコのデータを活用できていない
• 勤怠と給与の突き合わせが手作業
• 運行管理と給与計算が別の担当に分かれ、調整が煩雑
• 過去の勤怠データを監査前に揃えられない

この状態は、監査担当者が最も警戒するパターンです。帳票が揃っていても、実態との整合性が取れていなければ改善指導の対象になります。

成果が出ている会社の共通点

対照的に、業務が安定している会社は例外なく次を実現しています。

• 実績データの一元管理
• 計算・判定業務の自動化
• 記録のエビデンス化
• 給与計算の根拠の可視化

「データを整える仕組み」を作れているかどうかが、両者の分かれ目となっています。

具体的な事例

【事例A社：中堅40名規模】

• 給与計算 20時間 → 5時間（75％削減）
• 出庫／帰庫データを自動取得
• 改善基準告示の判定資料を即時出力

締め作業が安定し、給与の問い合わせが減少しました。

【事例B社：中小20名規模】

• 毎日の勤怠確認時間 45分 → 0分
• 連続運転時間の自動チェックで、改善指導対象ゼロ

給与根拠が明確になり、労使トラブル減少に貢献しました。

※いずれもヒアリング内容をもとに再構成したイメージであり、実際の効果は会社規模や運用方法により変動します。

トラック新法を見据えた3つの整備ポイント

運送会社がまず着手すべきは、次の3点です。

① 実働情報の自動収集

• 運転・休憩・荷待ちを自動取得
• 転記ミス防止、確認漏れの解消

② 労基 × 改善基準告示の自動判定

• 連続運転時間や拘束時間の自動計算
• 違反リスクが大幅に減少

③ 給与根拠の可視化

• 手当計算の根拠が明確
• ドライバーとの合意形成が容易

こうした仕組みを実現できるツール

こうした仕組みを現場で支えるツールの一例として、「運送業向け勤怠・給与連携システム」が挙げられます。例えば、勤怠ドライバーのようなシステムは、次のような機能を備えています。

• 出庫／帰庫／休憩などの実績データの自動取得
• 改善基準告示違反を自動検知
• 給与計算ソフトとの連携
• 監査提出レベルの証跡生成

同様の機能を持つ他社システムも複数存在します。システム選定時は、機能の多さよりも自社の運用方法との相性が最も重要です。

1年後に現れる“大きな差”

今後1年ほどで、会社の姿は大きく分かれていきます。

• 手作業の限界に悩み続ける会社
• 月初の負担が大幅に軽くなり、監査にも強くなる会社

両者の違いは、「いつ仕組みづくりに着手したか」で決まります。

おわりに

給与計算は会社の信頼性を左右する重要な業務です。もしバックオフィスの負担が限界に近づいているなら、それは改善を始めるサインです。

法令対応と業務効率化を両立できる仕組みを整えることが、これからの運送会社にとって不可欠になっています。まずは、「どのデータを、どの程度まで自動で整えたいのか」を社内で言語化し、自社に合った仕組みとツールを検討していくことが重要です。

参考資料・出典

• 厚生労働省「改善基準告示 改正のポイント」
  
  https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp
• 日本トラック協会「貨物自動車運送事業法 改正概要」
  
  https://www.jta.or.jp
• 国土交通省「物流改正法の施行について」
  
  https://www.mlit.go.jp/jidosha