2026.1.8

はじめに
「社労士がいるから大丈夫」
この言葉は、運送業の現場でよく耳にすることがあります。
実際、社会保険労務士は、複雑な法令対応や制度設計が求められる運送業において、
欠かすことのできない専門家です。顧問社労士の存在が、経営の支えになっている会社も数多くあります。
一方で、実務の現場や裁判・監査の事例を丁寧に見ていくと、「社労士が関与していたにもかかわらず、結果として会社側が不利な判断を受けてしまった」というケースが存在することも事実です。
本シリーズでは、この「社労士がいるから大丈夫」という言葉を出発点に、運送業の労務管理において
何が“本当に大丈夫”と言える状態なのかを、実態と実務の視点から整理していきます。
「顧問社労士がいたのに…」という現実
労務トラブルが裁判や是正指導に発展した際、 運送会社の経営者から次のような声を耳にすることがあります。
「顧問社労士がついていました」
「就業規則も整えていました」
「法令対応は専門家に任せていたつもりでした」
それにもかかわらず、結果として 会社側が不利な判断を受けてしまうケースは、決して少なくありません。
本記事は、
社労士を否定するものではありません
社労士の専門性を軽視するものでもありません
むしろ、
社労士が“間違う”のではなく、 社労士の専門性が発揮されにくい構造が存在している
という事実を、運送業の実務と法令の観点から整理するものです。
1. 社労士は「制度の専門家」である
社会保険労務士は、
労働基準法
改善基準告示
労使協定(36協定等)
就業規則
賃金制度設計
といった、労務制度と法令解釈の専門家です。
特に運送業は、
業界特有の勤務形態
拘束時間・休息期間の規制
2024年問題以降の法令強化
などが重なり、 社労士の関与なしに制度設計を行うことは現実的ではありません。
2. それでも「裁判で勝てない」理由はどこにあるのか
2-1 | 問題は「制度」ではなく「実態」にある
裁判や労基署対応で問われるのは、
制度が正しいか ではなく 制度が実態として守られていたか
です。
就業規則や労使協定が整っていても、
実際の労働時間が把握できていない
勤怠記録と給与計算が一致していない
現場運用が制度と乖離している
このような場合、 制度の正当性は十分に評価されません。
2-2 | 社労士が見ているのは「会社から提供された情報」
ここで重要なのは、 社労士は現場に常駐しているわけではないという点です。
社労士は、
会社から提供された勤怠情報
管理者からのヒアリング
過去の運用実績
を前提に、制度設計・助言を行います。
つまり、
実態情報が曖昧なままでは、 どれほど優秀な社労士でも、正確な判断はできません。
3. GU社労士法人・O先生の実務知見
ここで、運送業界に非常に精通した社労士である社労士法人先生の実例を紹介します。
3-1 | 給与改訂の相談から始まるケース
O先生が対応される運送会社では、
「給与制度を見直したい」
「ドライバーの不満を解消したい」
「法令対応を強化したい」
といった相談が多く寄せられます。
しかし、最初に必ず確認されるのが、次の点です。
「そもそも、労働時間は正確に取れていますか?」
3-2 | よく見られる“実態の問題点”
実務の現場では、以下のような課題が頻発しています。
所定労働時間の計測方法が違法の可能性
変形労働時間制を導入しているが、正式な手続きが未了
深夜時間・法定休日労働の計測ができていない
有給取得日の歩合・手当処理が曖昧
これらは、
制度設計の問題というより
実態把握と運用管理の問題
であることがほとんどです。
3-3 | 実態が見えなければ、就業規則は作れない
O先生が一貫して強調されているのは、
「実態を理解せずに就業規則を作り直すと、かえってリスクが高まる」
という点です。
構想だけで制度を先に作ってしまうと、
現場で守れない
実際の勤務とズレる
後から修正が必要になる
結果として、 裁判時に「形だけの規則」と判断される可能性が高まります。
4. 成功事例:給与改訂まで進んだ運送会社
O先生が担当された運送会社の中には、
勤怠管理の再整備
実測データの蓄積
就業規則の再構築
を経て、実際に給与改訂まで進めたケースがあります。
このケースでは、
まず勤怠管理システムを導入
実態データをもとに制度設計
社労士と会社が同じ数字を見て議論
というプロセスを踏みました。
結果として、
制度と実態の乖離が解消
社内説明が容易に
労務リスクの低減
につながっています。
5. なぜ「社労士がいても裁判に勝てない」のか
ここまでを整理すると、理由は明確です。
社労士が間違っているわけではない
制度が違法なわけでもない
しかし、
実態を裏付けるデータが不足している
この一点が、 裁判・監査において致命的になることがあります。
6. 社労士の専門性を活かすために必要なこと
6-1 | 社労士に“判断できる材料”を渡す
重要なのは、
正確な勤怠データ
継続的な記録
再現性のある管理方法
を整え、 社労士が専門家として判断できる状態を作ることです。
6-2 | 特化型システムは「代替」ではなく「補完」
勤怠管理システムは、
社労士の代わりになるものではありません
判断を自動化するものでもありません
あくまで、
実態を正確に記録し、 社労士と会社をつなぐ“共通言語”
として機能します。
7. 裁判・監査に強い運送会社の共通点
実務上、評価されやすい会社には共通点があります。
勤怠・給与・就業規則が整合している
説明可能なデータが残っている
社労士と定期的に実態を共有している
これらは、 特別なノウハウではなく、日々の管理の積み重ねです。
おわりに
「社労士がいるから安心」ではなく
「社労士と同じ実態を見ているから安心」へ
社労士は、運送会社にとって欠かせないパートナーです。
その力を最大限に活かすためには、
実態を正確に把握する仕組み
データに基づく議論
制度と運用をつなぐ体制
が必要です。
社労士 × 運送会社 × 実態管理 この三位一体の関係こそが、 裁判リスクを下げ、持続的な経営につながります。
自社の状況に当てはめて考えたい方へ
本記事の内容を読んで、「自社の場合はどう考えればいいのか」と感じた方へ。
運送業の実態を踏まえた労務管理の考え方について、個別にご相談を承っています。
まずは状況の整理だけでも大丈夫です。お気軽にお問い合わせください。
次回予告
第2弾|社労士顧問がいても安心とは限らない
―運送業における「顧問契約の正しい活かし方」と実務体制 ―
本記事はシリーズ「社労士がいるから大丈夫」は本当か?の第1弾|社労士がいても裁判に勝てない理由 です。






















































































